委任状の有効期限と撤回:代理権が消える場面と、やめるときの伝え方

委任状に有効期限を書かなかったら、いつまで使えるのか。やめたいときはどうするのか。本人が亡くなったらどうなるのか。民法の代理と委任の条文を確かめながら、期限の書き方、代理権が消える場面、解除の仕方、取引先への知らせ方を、書式の例と受け取る側の確認の問い、場面別の起きがちなことつきで整理します。

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「撤回しない」と書いてあるから、やめられない。そう思い込んで対応が遅れると、解除したつもりの代理権が相手方には残っていた、という場面につながります。

このページの要点

  • 有効期限は法律が一律に決めておらず、書面の期限、提出先の運用、民法の消滅事由の三つを分けて考える。
  • 代理権は、本人の死亡、代理人の死亡・破産手続開始の決定・後見開始の審判、委任の終了で消える(民法111条、653条)。
  • 委任はいつでも解除できるが、相手方に不利な時期の解除などは損害賠償が問題になる(民法651条)。「撤回しない」の一文に頼らず、予告と精算と返却を書く。
  • 終了は、通知したか相手が知っていたのでなければ主張できず(民法655条)、取引先には消滅を知らせないと本人が責任を負うことがある(民法112条)。

結論:期限は書面で決め、終わり方は民法が決め、終わったことは知らせるまで主張できない場面がある

委任状は、本人が代理人に代理権を与えるための書面です。代理権とは、本人に代わって意思表示をし、その効果を本人に生じさせる権限のことです。委任状を作るときに多くの方が迷うのが、「いつまで有効なのか」「やめたくなったらどうすればよいのか」「本人が亡くなったらどうなるのか」という三つの点です。このページでは、民法の条文を一つずつ確かめながら、代理権が続く期間、消える場面、やめるときの手順、そして終わったことを相手方に知らせる方法を整理します。先に結論を示します。

  • 委任状の有効期限を、法律が一律に決めているわけではありません。書面に期限がなければ、代理権は、民法の定める消滅事由が生じるか、委任が終わるまで続きます。提出先が「発行から一定期間内のもの」と求める取扱いは、提出先のルールであり、法律上の期限とは別の話です。
  • 代理権が当然に消える場面は、条文に書かれています。本人の死亡、代理人の死亡、代理人が破産手続開始の決定や後見開始の審判を受けたこと(民法111条1項)、そして、委任による代理権は委任の終了(同条2項)です。
  • 委任は、各当事者がいつでも解除できます(民法651条1項)。ただし、相手方に不利な時期に解除したときなどは、損害を賠償する責任が生じることがあります(同条2項)。
  • 終了したことは、通知したか、相手が知っていたのでなければ、委任の相手方に主張できません(民法655条)。取引の相手方との関係では、代理権が消えた後の行為について、消滅を知らなかった第三者に責任を負うことがあります(民法112条)。
  • 「撤回しない」「いつまでも有効」と書けば安全、というものではありません。期限、やめる手順、やめたときの精算と返却を、書面に具体的に書いておく方が、本人にも代理人にも受け取る側にも役に立ちます。

このページが扱うのは、代理権の「終わり」です。そもそも何を書くかは委任状の書き方、どこまで任せるかは委任状の代理の範囲のページで整理しています。署名や押印の扱いは委任状の署名・押印・本人確認のページが対象です。

「有効期限」という言葉が指す、三つの別のもの

委任状の有効期限という言葉は、実際には三つの違うものを指して使われています。混ぜて考えると、「期限切れだから無効」「期限が書いていないから永久に有効」という極端な理解になりがちです。

「有効期限」の三つの意味

何の期限か誰が決めるか期限が過ぎるとどうなるか書面を作るときの注意
委任状に書いた期限本人(委任状を作る人)期限を過ぎた後の行為は、代理権の範囲外になる。範囲外の行為は、本人に効力が及ぶとは限らず、代理権がない者がした行為として扱われる場面がある(無権代理=民法113条)「令和○年○月○日まで」のように、日付か、手続の完了を基準に書く。過ぎた後の扱い(使えなくなること、返却)も書く
提出先が求める発行後の期間窓口・金融機関・取引先など受け取る側法律上は有効でも、その窓口では受け付けてもらえない。再度の取り直しが必要になる提出先の案内で、発行日からの期間や原本・写しの別を先に確認する。提出先ごとに案内は異なる
法律が定める消滅民法(111条・651条・653条)期限の記載がなくても、死亡や委任の終了で代理権が消える期限を書いたかどうかにかかわらず、消滅事由が生じたときは使えない。その旨を書面に書く運用もある

この三つを区別すると、次のような疑問も整理できます。たとえば、期限を書いていない古い委任状を、提出先が受け付けないことがあります。これは、法律上の消滅事由が生じたかどうかを、窓口が確かめられないためです。本人が亡くなっていても、書面からは分かりません。受け取る側は、書面の古さを手がかりに、再度の確認を求めることになります。

もう一つ押さえておきたいのは、代理権と、その元になっている委任契約の関係です。委任とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方が承諾することで効力を生じる契約です(民法643条)。委任状は、この委任に基づいて代理権を与えたことを示す書面として使われます。委任による代理権は、委任の終了によって消滅します(民法111条2項)。つまり、元の委任契約が終わると、委任状が手元に残っていても、代理権はなくなります。

期限の書き方:日付で切る、手続の完了で切る、書かない

期限の書き方は、大きく三つに分かれます。どれを選ぶかは、手続の性質で決まります。

期限の書き方の比較

書き方向く場面利点注意
日付で切る(「令和○年○月○日まで」)手続の完了時期が見通せる、一回限りの手続相手方が期限を確認しやすい。期限後に使われる心配が小さい手続が長引いたとき、期限が先に来てしまう。延長の方法(新しい委任状を作る)を決めておく
手続の完了で切る(「○○の手続が完了するまで」)完了の時期が事前に決まらない手続期限切れで取り直す手間が減る完了したかどうかを相手方が判断しにくい。完了後に使われないよう、完了時の返却を書く
期限を書かない反復する事務を任せる場合更新の手間がない消滅事由が生じるまで続くと読める。やめるときの手順と、相手方への通知の方法を別に定める必要がある

日付で切る場合は、「まで」の日を含むのか、期限日の何時までなのかを迷わせない書き方にします。実務でよく見られるのは、「令和○年○月○日までに提出する書類の手続に限り」のように、手続の範囲と日付を一体にする書き方です。日付だけを書くと、期限内であれば別の手続にも使えると読まれるおそれがあります。対象の手続の書き方は代理の範囲のページで扱っています。

手続の完了で切る場合は、完了の判断を誰がするかが問題になります。代理人が自分で「完了した」と判断して使い続けることを防ぐには、「手続が終了したときは、直ちに委任状を本人に返却する」と書き、返却を終了の合図にします。受け取る側にとっても、返却の有無は手がかりになります。

期限を書かない場合は、いつまでも続くと読まれる点が最大の注意点です。反復する事務、たとえば定期的な書類の受領などを任せるときは、期限を書かないこともありますが、その場合ほど、本人から相手方への通知の方法、代理人の側の返却の義務、内容を見直す時期を、書面で決めておく必要があります。

書き方の例(一般的な例) 期限と終了の書き方

期限の定め

よくある書き方「本委任状は、委任事項が終了するまで有効とする。」
整えた書き方「本委任状は、令和○年○月○日までの間に限り、下記の手続について有効とする。手続が同日より前に終了したときは、直ちに本委任状を本人に返却する。」

理由期限日と返却の二重で歯止めをかける。完了の判断を代理人だけに委ねない

期限後の扱い

よくある書き方期限についての記載がない
整えた書き方「期限を過ぎた後は、本委任状に基づく行為をする権限は消滅する。必要があるときは、改めて委任状を作成する。」

理由期限後に使われることを防ぐ。受け取る側が拒むときの根拠にもなる

使い回しの禁止

よくある書き方「その他一切の件」という包括的な書き方
整えた書き方「本委任状は、下記の一件の手続に限り使用し、他の手続には使用しない。」

理由期限を決めても、対象が広ければ期限内に別の手続に使われる

書式の例

委任状(期限と返却を定める部分の書式の例)

私は、下記の者を代理人と定め、下記の手続を委任します。

1 委任事項 ○○に関する○○の手続

2 有効期間 令和○年○月○日まで

3 委任事項が前項の期間内に終了したときは、代理人は直ちに本委任状を本人に返却します。

4 期間が経過した後は、代理人は本委任状に基づく行為をすることができません。

5 本人が委任を解除したときは、代理人に対する書面または電子的な方法による通知をもって足り、代理人は直ちに本委任状を返却します。

  • 令和○年○月○日  委任者(本人) 住所・氏名
  • 代理人 住所・氏名

固有名詞・日付・事項は伏せた一般的な書式の例です。提出先が様式を定めている手続では、その様式が優先します。

代理権が消える場面を、条文で一つずつ確かめる

代理権の消滅事由は、民法111条に書かれています。この条文は、代理権一般についての規定で、委任によるもの(任意代理)のほか、親権者や後見人のような法律に基づく代理にも当てはまります。委任状で与える代理権は、本人の意思で与えるので、任意代理にあたります。

条文代理権と委任の終了を定める条文

  • 民法111条1項代理権は、本人の死亡、代理人の死亡、代理人が破産手続開始の決定や後見開始の審判を受けたことによって消滅する書面では期限を書いていなくても、この場面では代理権が消える。委任状に「本人の死亡後も有効」と書くだけでは、この条文の結果を変えられるとは限らない(死亡後の事務は、委任状の延長では整理できない)
  • 民法111条2項委任による代理権は、1項の事由のほか、委任の終了によって消滅する書面では委任契約が終わると、委任状が手元にあっても代理権はなくなる。解除や期間満了を書面にする意味がここにある
  • 民法653条委任は、委任者または受任者の死亡、委任者または受任者が破産手続開始の決定を受けたこと、受任者が後見開始の審判を受けたことによって終了する書面では本人が破産手続開始の決定を受けたときも、委任が終了し、委任による代理権が消える(111条2項)。本人が後見開始の審判を受けただけでは、この条文の終了事由には挙がっていない
  • 民法651条委任は、各当事者がいつでも解除できる。相手方に不利な時期の解除などは、損害の賠償が問題になる書面では「やめたいときにやめられる」という前提で書面を作る。賠償の問題を避ける工夫(予告の期間など)を書面に置く
  • 民法655条委任の終了事由は、相手方に通知したとき、または相手方が知っていたときでなければ、その相手方に主張できない書面では本人と代理人の間でも、通知や了知がなければ「終わった」と言い切れない。解除の通知は、記録の残る方法で行う
  • 民法112条代理権が消えた後でも、消滅を知らなかった第三者に対して、本人は責任を負うことがある。第三者に過失があるときは例外書面では本人側も、取引先に代理権の消滅を知らせておく必要がある。知らせた事実が記録に残ると、後の争いで役に立つ

条文は要約です。実際に判断するときは、条文の全文と、提出先の案内を確かめてください。

表のうち、見落とされやすい点を二つ補足します。

一つ目は、本人の後見開始です。111条1項と653条を読むと、代理人が後見開始の審判を受けたときは代理権が消えるのに対し、本人が後見開始の審判を受けたことは、列挙されていません。これは、本人がすでに与えた代理権が、本人の判断能力の低下だけでは自動的に消えないことを意味します。ただし、判断能力が低下した後に新しく委任状を書く場合は別です。法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効です(民法3条の2)。判断能力が不十分な状態での署名の扱いは、未成年者・判断能力が不十分な人の同意書・委任状のページで整理しています。

二つ目は、死亡後の事務です。本人が亡くなると、代理権は消えます(民法111条1項1号)。「本人が亡くなった後も有効」と委任状に書いても、窓口がそれを受け付けるとは限りません。亡くなった後の手続は、相続人など別の人が当事者になる手続が中心になるため、委任状の延長では整理できない場面が多いといえます。ただし、委任が終了した場合でも、急迫の事情があるときは、受任者は必要な処分をしなければならないと定められています(民法654条)。この規定は、代理権が残るという意味ではなく、緊急の場合に最低限の対応を求めるもので、委任状の効力を延ばす根拠にはなりません。

場面ごとの整理

場面代理権書面と運用での備え
本人が死亡した消滅する(111条1項1号)代理人は、知った時点で使用を止める。受け取った物の引渡しと報告の義務は、委任が終わった後も残る(645条・646条)
代理人が死亡した消滅する(111条1項2号)代理人の遺族は、委任状の返却と事務の報告を行う。本人側は、取引先に代理人の変更を知らせる
代理人が破産手続開始の決定または後見開始の審判を受けた消滅する(111条1項2号)代理人の側にも、本人への通知を求める定めを置く。信頼を前提とする委任では、こうした事由が生じたことを速やかに知らせる約束が役に立つ
本人が破産手続開始の決定を受けた委任の終了により消滅する(653条2号、111条2項)財産に関する委任状は、使用を止める。取引先にも知らせる
本人が解除した、または期間が満了した委任の終了により消滅する(651条1項、111条2項)解除の通知を記録の残る方法で行い、委任状を回収する
本人の判断能力が低下した条文には、自動的な消滅事由としては挙がっていない低下の後に新しく与える代理権は、意思能力の問題が生じる(3条の2)。窓口が追加の確認を求める場合がある

やめたいとき:解除の仕方と、「撤回しない」と書く場合の限界

委任状を出した後で、代理人を替えたい、手続が不要になった、信頼できなくなった、という場面は珍しくありません。委任状の世界では「撤回」という言葉がよく使われますが、民法の条文上の言葉は「解除」です。委任は、各当事者がいつでも解除できます(民法651条1項)。委任状を回収するだけでなく、解除したことを代理人に伝えることが、手順の中心になります。

解除は自由にできますが、解除した人が相手方の損害を賠償しなければならない場合があります。条文は二つの場面を挙げています。一つは、相手方に不利な時期に解除したときです。もう一つは、委任者が、受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したときです。いずれも、やむを得ない事由があったときは賠償しなくてよいとされています(民法651条2項)。たとえば、代理人が着手金を使って準備を進めていた最中に、本人が突然解除した場合などは、費用の精算が問題になりやすくなります。報酬と費用の精算の方法は、委任状ではなく、元になる委任契約で決めておくのが基本です(委任の報酬は特約がなければ請求できません=民法648条1項。費用の償還は民法650条1項)。

書面の作り方として、実務でよく見られるのは、次のような三つの型です。

書き方の例(一般的な例) 解除に関する定めの書き方

解除の自由

よくある書き方「本人は、本委任状を撤回しない。」
整えた書き方「本人は、いつでも本委任状に基づく委任を解除できる。解除したときは、代理人に書面または電子的な方法で通知し、代理人は直ちに本委任状を返却する。」

理由民法は解除の自由を前提としている。「撤回しない」と書いても、解除権を完全に排除できると読めるかは別の問題で、争いの種になる

解除の時期

よくある書き方解除についての記載がない
整えた書き方「解除の通知は、手続の準備に必要な期間を考慮し、あらかじめ相当の期間をおいて行う。」

理由「相手方に不利な時期」の争いを避けるため、予告の期間を具体的に書く方法がある

精算

よくある書き方「解除しても一切の返金をしない」
整えた書き方「解除の時点までに代理人が適法に支出した費用は、本人が支払う。報酬は、既にした履行の割合に応じて支払う。」

理由委任が履行の中途で終了したときは、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる(民法648条3項2号)。条文と食い違う書き方は争いを呼ぶ

「撤回しない」「取消しできない」という書き方は、代理人の側から求められることがあります。代理人が先に費用を出している場合や、相手方との間で手続が進んでいる場合に、突然やめられては困るという事情があるためです。この気持ちは自然ですが、書面の書き方としては、解除そのものを禁止するよりも、解除するときの予告の期間、精算の方法、返却の方法を決める方が、条文の考え方と合います。解除を禁止する定めの効力は、当事者の関係や委任の目的によって判断が分かれうるので、書面の作成段階では、禁止の文言に頼らない設計が安全です。

もう一点、委任が終了した後の義務を確認しておきます。受任者は、委任の終了後に遅滞なくその経過と結果を報告し(民法645条)、委任事務を処理するにあたって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければなりません(民法646条1項)。委任状を返却するだけでなく、手続の結果、受け取った書類や金銭の引渡しも、終了時の手順に含めます。

終わったことを知らせる:通知の方法と、受け取る側の確認

代理権が消えても、消えたことを取引の相手方が知らなければ、本人が責任を負う場面があります。民法112条は、他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその範囲内でその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対して責任を負うとします。第三者が過失によって知らなかったときは例外です。つまり、本人が解除しただけで安心せず、取引先や窓口に「この代理人の権限は終わった」と伝え、委任状を回収するところまでが、実務の手順になります。

代理権を終わらせるときの手順の例

  1. 解除の意思を代理人に伝える書面、メール、メッセージなど、後から確認できる方法で伝える。伝えた日時が分かる形で残す(民法655条の通知)。
  2. 委任状の原本と写しを回収する代理人に返却を求める。写しやデータが取引先に渡っているときは、その一覧を代理人から聞き取る。
  3. 取引先・窓口に知らせる委任状を提出した先に、代理権が終わったこと、終了した日、以後は本人または別の代理人を相手にすることを伝える(民法112条の第三者への備え)。
  4. 経過と結果の報告、受取物の引渡しを受ける代理人から、手続の経過と結果の報告を受け、受け取った金銭や書類を引き渡してもらう(民法645条・646条)。
  5. 費用と報酬を精算する元になった委任契約の定めに従い、既にした履行の割合に応じた精算を行う(民法648条・650条)。

順序は一例です。急ぐ場合は、取引先への通知を先に行います。

書式の例

代理権の終了のお知らせ(書式の例)

○○ 御中

私が令和○年○月○日付で代理人○○に交付した委任状(○○の手続に関するもの)に基づく代理権は、令和○年○月○日をもって終了しました。

以後は、代理人○○を通じてではなく、私本人(または別に通知する者)を相手方として、お取り扱いくださいますようお願いします。

代理人が所持する委任状の写しがありましても、同日以降は使用できませんので、ご留意ください。

  • 令和○年○月○日  本人 住所・氏名

宛先・日付・手続は伏せた一般的な書式の例です。内容証明郵便などの特別な方法を用いるかどうかは、争いの見込みの大きさで判断します。

受け取る側の窓口や取引先の立場からは、委任状が届いたとき、その時点で代理権が続いているかを確かめる必要があります。確認の観点を問いの形で示します。

確認の問いと理由委任状を受け取るときの確認の問い

  1. 委任状に期限があるか。あるなら、今日は期限内か

    期限後の行為は代理権の範囲外になり、取引が本人に及ばないおそれがある。受け取る側がこの確認を省くと、後で取引の効力を争われる。

  2. 委任状の日付は古すぎないか。自分の窓口は、発行後の期間に制限があるか

    法律上の期限がなくても、窓口の運用で受付を断る場合がある。断るときは、理由と、取り直しの手順を案内できるようにしておく。

  3. 本人に直接、代理権が続いているかを確かめる手段があるか

    本人の死亡や解除は、書面からは分からない。電話や郵送など、本人に確認できる連絡先を、申請の時点で聞いておく。

  4. 代理人に、委任状の原本を持参してもらっているか

    写しだけでは、解除によって回収された後の書面か判別できない。原本の提示を求める窓口が多いのはこのため。

  5. 代理人が代理権を失った旨の連絡を、本人から受けていないか

    民法112条は、消滅を知らなかった第三者に過失があるときは保護しない。連絡を受けていたのに受付を続けると、保護されない場合がある。

起きがちなこと:期限・解除・通知をめぐる場面別の整理

最後に、期限と撤回をめぐって実務でよく見られる場面を整理します。いずれも、書面の書き方と運用で防げるものが中心です。

場面別の起きがちなこと

  • 期限を書かなかった委任状が数年たっても手元に残り、不要になった後も使える状態になる。回収を忘れると、後になって「いつまで使えるのか」を巡って争いになる。
  • 期限は書いたが、手続が延びた期限を過ぎた委任状は使えない。延長の方法を決めていないと、本人が遠方にいる場合などに取り直しが間に合わない。
  • 解除したが、取引先に知らせなかった取引先は消滅を知らなければ、代理人との取引を有効と信じて進める。本人が責任を負う場面が生じる(民法112条)。
  • 本人が亡くなった後も、代理人が手続を続けた代理権は死亡により消えている(民法111条1項1号)。続けた行為は、代理権がない者がした行為になりうる。
  • 「撤回しない」と書いたため、やめられないと思い込んだ解除の自由を前提とする民法の考え方と食い違う場合がある。やめたいときの手順を書いていなかったために、対応が遅れる。
  • 委任状の写しだけが取引先に残った原本を回収しても、写しは使われうる。取引先に、終了した旨と、写しを使用しないよう通知する必要がある。
  • 代理人から、解除に対する費用の請求があった準備に費用を支出していた場合は、精算が問題になる(民法650条)。委任状でなく、元の委任契約で定めておく。

書く前・渡す前のチェックリスト

  • 期限を日付か手続の完了で書いたか。期限後の扱いと返却を書いたか。
  • 対象の手続を特定し、期限内に他の手続へ使われないようにしたか。
  • 本人が解除するときの通知の方法(書面・電子的方法)を書いたか。
  • 解除したときの精算(費用・報酬)の考え方を、委任契約の側で決めたか。
  • 「撤回しない」の一文に頼らず、予告の期間と返却の手順で整えたか。
  • 提出先の発行後の期間・原本の提出の要否を、先に確認したか。
  • 取引先に代理権の終了を知らせる手順を、あらかじめ決めたか。

ここまでの内容は、白紙のまま渡す場合の危険とも関係します。期限や対象を書かない委任状は、終わりが見えないだけでなく、誰が使うかも決まっていません。その点は白紙委任状の危険で扱っています。また、代理人が権限外の行為をしたときの本人と相手方の立場は、委任状・承諾書・同意書のトラブルとよくある質問で整理しています。

よくあるご質問

委任状に有効期限を書かないと、いつまで有効ですか?

法律が一律の期限を定めているわけではないため、書面に期限がなければ、消滅事由が生じるか、委任が終わるまで代理権は続きます。消滅事由は、本人の死亡、代理人の死亡、代理人が破産手続開始の決定や後見開始の審判を受けたこと(民法111条1項)、委任の終了(同条2項)などです。ただし、窓口や金融機関が、発行から一定期間内のものに限って受け付けるという運用をしていることがあるので、提出先の案内を先に確認してください。

委任状を出した後で、やめたくなったときはどうしますか?

委任は各当事者がいつでも解除できます(民法651条1項)。代理人に解除を書面などの記録が残る方法で伝え、委任状の原本を回収し、委任状を提出した取引先にも代理権が終わったことを知らせます。相手方に不利な時期に解除した場合などは、損害の賠償が問題になることがあるため(同条2項)、準備に費用がかかっているときは、精算の方法も話し合っておくと安心です。

「撤回しない」と委任状に書いてあれば、もうやめられませんか?

民法は、委任の各当事者がいつでも解除できるとしています(民法651条1項)。「撤回しない」という定めが、この解除権をどこまで排除できるかは、委任の目的や当事者の関係によって評価が分かれうる論点です。書面を作る段階では、解除を禁止する文言に頼るのではなく、解除するときの予告の期間、精算の方法、委任状の返却の手順を具体的に書く方が、争いを防ぎやすくなります。

本人が亡くなったとき、委任状はどうなりますか?

本人の死亡により、代理権は消滅します(民法111条1項1号)。委任も、委任者の死亡によって終了します(民法653条1号)。代理人は、本人の死亡を知った時点で委任状の使用を止め、受け取った物の引渡しと経過の報告を行います(民法645条・646条)。死亡後の手続は、相続人など別の人が当事者になる手続が中心になるため、委任状の延長では整理できない場面が多くあります。

解除したことを取引先に知らせないと、どうなりますか?

代理権が消えた後でも、消滅の事実を知らなかった第三者に対しては、本人が責任を負うことがあります(民法112条1項)。第三者に過失があるときは例外です。そのため、解除したら、委任状を提出した先に、代理権が終わった日と、以後は本人または別の代理人を相手にすることを、書面などで知らせておくのが基本です。

あわせて読みたいページ

本ページは一般的な情報提供です。個別の場面への当てはめは、書面を出す相手、手続の種類、当事者の関係によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、契約書作成の実務でよく見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は現行の規定にもとづいて書いています。官公庁の手続の様式や必要書類は、提出先の案内で確認してください。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会 / 法務省 / 消費者庁

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