このページの要点
- 承諾は行為の前に書面で取るのが基本。事後の追認は、効力がさかのぼる場合でも第三者の権利を害せない(民法116条)。
- 追認は相手方に対してする(民法113条2項)。確答の催告に期間内に答えないと、追認を拒絶したものとみなされる(民法114条)。
- 条件付きの承諾は、条件・期限・失効の時期を具体的に書く。契約の申込みに条件を付けた承諾は、新たな申込みとみなされる(民法528条)。
- 返事がないことを承諾とみなす書き方は避ける。承諾を断られたら、承諾を前提にした行為を止める(民法612条2項、96条)。
結論:承諾は「先に・書面で・範囲を限って」取る。先に動いてしまったときは、追認と条件付きの承諾で整える
承諾書の書き方が整っていても、現場では、承諾をいつ、どの順序で取り付けるかが問題になります。工事を先に始めてしまった、取引の相手に提供を先にしてしまった、承諾をもらいたいが相手が条件を付けてきた、返事をもらえない、そもそも断られた、というように、承諾をめぐる困りごとは「順序」と「条件」と「拒絶」に集まります。このページでは、事前の承諾と事後の追認の違い、追認の効果と限界、条件付きの承諾の書き方、承諾を取り付ける手順、承諾を拒まれたときの考え方、承諾書にするか合意書にするかの判断を、民法の条文を確かめながら整理します。先に結論を示します。
- 承諾は、行為をする前に書面で取るのが基本です。事後に得られた承諾(追認)は、効果がさかのぼる場合があっても、第三者の権利を害することはできません(民法116条)。
- 無権代理の追認は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗できません(民法113条2項)。相手方は、本人に、期間を定めて追認するかどうかの確答を求める催告ができ、確答がなければ追認を拒絶したものとみなされます(民法114条)。
- 承諾に条件を付けるときは、条件、期限、条件に反したときの扱いを具体的に書きます。契約の申込みに条件を付けて承諾した場合は、申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなされます(民法528条)。
- 「返事がなければ承諾したものとみなす」と書いても、相手が同意していなければ、承諾にならないのが原則です。民法には、一般的な黙示の承諾のみなし規定はありません。
- 承諾を断られたとき、承諾を前提に先行して動くのは危険です。承諾なしに賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸すると、契約の解除の問題が生じます(民法612条2項)。
承諾書そのものの書き方は承諾書の書き方のページで整理しています。このページは、承諾を取り付ける過程に絞ります。署名・押印や本人確認は委任状の署名・押印・本人確認と共通するため、そちらを参照してください。
事前の承諾と事後の追認:何が違い、何が同じか
承諾を取る時期には、行為の前に取る「事前の承諾」と、行為の後に取る「事後の承諾」があります。民法では、事後の承諾が「追認」という言葉で整理される場面があります。まず、整理しておきたいのは、追認が登場する場面が複数あり、それぞれ条文が違うことです。
事前の承諾と、事後の追認が登場する主な場面
| 場面 | 追認の対象 | 根拠 | 書面を作るときの要点 |
|---|---|---|---|
| 事前の承諾 | これから行う行為 | 契約や法律が承諾を要求している場合(例:民法612条1項) | 行為の前に、対象・期間・範囲を特定して承諾を書面で得る。承諾を前提に準備を進められるため、実務では安定しやすい |
| 無権代理の追認 | 代理権がない者が他人の代理人としてした契約 | 民法113条〜117条 | 追認は相手方に対してする。追認の効果は契約時にさかのぼるが、第三者の権利は害せない(116条) |
| 取り消せる行為の追認 | 行為能力の制限、錯誤、詐欺、強迫などで取り消せる行為 | 民法122条・124条・125条 | 取消しの原因となっていた状況が消滅し、取消権を有することを知った後でないと追認の効力が生じない(124条1項)。例外あり |
| その他の事後の承諾 | 承諾なしに先行した行為(転貸、改装、提供など) | 契約の定めと、承諾の内容による | 何について、どの時点から、どの範囲で承諾するのかを書面で明確にする。過去の行為について異議を述べない旨を書くかどうかを決める |
表の最後の行がとくに実務で問題になります。たとえば、承諾を得ずに第三者に使わせてしまった後で、承諾を得ようとする場面です。民法612条2項は、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は契約の解除ができると定めています。事後に承諾が得られた場合に、解除を求めない扱いになるかどうかは、承諾の内容と相手方の意思によりますし、承諾書の書き方次第で、承諾した範囲が曖昧になります。過去の期間も含めて承諾するのか、将来の期間のみ承諾するのか、条件が付くのかを、書面で明確にしておく必要があります。
事前の承諾と事後の追認は、「結果として同じ」ではありません。事前の承諾は、行為をする人が安心して準備を進められる点で優れています。事後の追認は、相手が追認を拒めば、行為は承諾を欠いたままとなり、契約の解除や損害賠償の問題が残ります。そのため、承諾が必要か不明な場面でも、承諾を求める側が事前に書面で確認する方が安全です。事後に頼らなければならなくなった場面でも、追認を求める書面の中で、どの行為について追認を求めるのかを特定することが、争いの予防になります。
追認の効果と限界:条文で確かめる
追認の効果を、民法の条文で確かめておきます。ここでは、無権代理の追認を中心に取り上げます。無権代理とは、代理権がない者が他人の代理人としてした契約のことで、追認は、本人がこの契約を自分のものとして認める意思表示です。
条文追認と無権代理に関する条文
- 民法113条1項・2項代理権がない者が他人の代理人としてした契約は、本人が追認しなければ、本人に効力を生じない。追認またはその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗できない(相手方がその事実を知ったときを除く)書面では追認の書面は、相手方に宛てて作る。本人が代理人にだけ追認を伝えても、相手方に対抗できないことがある
- 民法114条相手方は、本人に、相当の期間を定めて追認するかどうかの確答を催告できる。確答がないときは、追認を拒絶したものとみなされる書面では追認を求める側は、期限を区切って確答を求める。期限内に返事がなければ、追認は得られなかったものとして扱われる
- 民法115条代理権がない者がした契約は、本人が追認しない間は、相手方が取り消すことができる(契約時に代理権がないことを相手方が知っていたときを除く)書面では追認の前に、相手方が契約を取り消す可能性がある。追認を求めるなら、速やかに行う
- 民法116条追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼって効力を生じる。ただし、第三者の権利を害することはできない書面では追認の書面に、さかのぼるのか、追認の日から効力が生じるのかを書いておくと、争いを避けられる
- 民法117条1項・2項他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、または本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、履行または損害賠償の責任を負う。相手方が代理権のないことを知っていたときなどは例外書面では代理人は、追認を得られなければ自分が責任を負う。追認を求める動機になる
条文は要約です。代理人の権限と本人の責任については、別のページ(白紙委任状の危険)でも扱っています。
表の条文から、追認の書面を作るときの考え方が見えてきます。
第一に、追認は「誰に対して」するかが決まっています。民法113条2項は、追認またはその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗できないとしています。本人が、代理人にだけ「追認する」と伝えても、取引の相手方に対しては追認の効力を主張できない場合があります。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りではありません。実務では、追認の書面を相手方宛てに作り、到達した記録を残します。
第二に、追認の効果がさかのぼる点です。民法116条は、追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼって効力を生じるとしています。契約の時点から有効だったことになるため、追認を受ける側にとっては大きな意味があります。他方、ただし書で、第三者の権利を害することはできないとされています。追認の前に、第三者が権利を取得していた場合、その第三者の権利が追認によって侵害されることはありません。追認の書面に「別段の意思表示」を入れるとすれば、たとえば「追認の日から効力を生じる」という定めです。さかのぼらせるのか、追認の日からにするのかは、意図に応じて書いておく方が、後で食い違いが生じません。
第三に、追認を求められた側には、期限を守るべき事情があります。相手方は、本人に対して、相当の期間を定めて追認の確答を催告できます。期間内に確答がないと、追認を拒絶したものとみなされます(民法114条)。本人が、追認するかどうか迷っているうちに期限が過ぎると、結果として追認が得られなくなります。追認を求められた側は、期限と内容を確認し、回答の方法を決める必要があります。
第四に、追認は、無権代理だけでなく、取り消せる行為にも関係します。行為能力の制限、錯誤、詐欺、強迫によって取り消せる行為は、取消権を持つ人が追認したときは、以後取り消すことができません(民法122条)。ただし、追認が効力を生じるのは、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後です(民法124条1項)。承諾を強要された人や、判断能力が不十分な状態で承諾書に署名した人が、その状態が続いている間に「追認」の書面に署名しても、追認として有効にならない場合があります。追認の書面を取るタイミングは、相手の状態を踏まえて決める必要があります。
なお、民法116条は、無権代理の追認についての条文です。無権代理ではない事後の承諾、たとえば承諾なしの転貸に対する賃貸人の事後の承諾が、同じ効果を持つかどうかは、承諾の内容と対象の行為によって個別に判断されます。条文の適用を前提にせず、書面に承諾の範囲と効力の及ぶ時期を明記するのが、実務的に有力な方法です。
条件付きの承諾:条件・期限・取消事由の書き方
承諾を求められた側が、「条件を守るなら承諾する」と答えることは珍しくありません。たとえば、工事を承諾するが、時間帯を限定する、使用を承諾するが、期間を区切る、転貸を承諾するが、転借人を特定する、というものです。条件付きの承諾は、承諾する側にとっても、求める側にとっても、安心の材料になります。ただし、書き方を誤ると、承諾の効力の有無が曖昧になります。
まず、契約の申込みに対して条件を付けて承諾した場合の民法の扱いです。民法528条は、承諾者が、申込みに条件を付け、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなすと定めています。この条文は、契約の申込みと承諾に関するものですが、考え方は承諾書の取付けにも参考になります。条件付きの承諾は、元の求めをそのまま認めたものではなく、「この条件ならよい」という新たな提案として受け止められます。そのため、条件を付した側と、受けた側で、最終的に何に合意したのかを、書面で確定する必要があります。
次に、条件という言葉の法律上の意味です。民法は、条件が成就した時から法律行為が効力を生じる「停止条件」と、条件が成就した時から効力を失う「解除条件」を区別しています(民法127条1項・2項)。たとえば、「保証金を預けることを条件に承諾する」は、保証金の預入れが成就した時から承諾が効力を生じる停止条件にあたります。「条件に違反したときは承諾の効力を失う」は、解除条件にあたります。書面に「条件」と書くときは、承諾が始まる条件なのか、終わる条件なのかを、意識して書き分けます。
条件付きの承諾の型
| 型 | 書き方の例 | 効果 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 承諾が始まる条件(停止条件) | 「保証金の預入れが完了したときに限り、承諾の効力を生じる。」 | 条件が成就した時から承諾が効力を生じる(民法127条1項) | 条件が成就する前に行為をすると、承諾がない状態での行為になる。成就の確認方法(受領の通知など)を書く |
| 承諾が終わる条件(解除条件) | 「本条件に違反したときは、承諾は直ちにその効力を失う。」 | 条件が成就した時から承諾が効力を失う(民法127条2項) | 「違反」の内容を具体的に書く。曖昧だと、失効したかどうかで争いになる |
| 期限(終期) | 「承諾の有効期間は、令和○年○月○日までとする。」 | 期限の到来により承諾が終わる | 期限後に行為が続いている場合の扱い(原状回復など)を書く |
| 範囲の限定 | 「承諾は、別紙の範囲に限る。範囲を超える場合は、改めて承諾を要する。」 | 承諾の範囲外の行為は、承諾の対象にならない | 範囲を図面や別紙で特定するときは、承諾書と一体の書面として扱う |
条件付きの承諾にしたときに起こりうる問題として、条件の成否が定まるまでの期間があります。民法128条は、条件付法律行為の各当事者は、条件の成否が未定である間は、条件が成就した場合にその法律行為から生ずべき相手方の利益を害することができないと定めています。また、民法130条は、条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができるとします。条件を付けた側が、条件が満たされないように妨げると、条件が満たされたものとして扱われることがあります。条件付きの承諾を設計するときは、条件の成否が不明の間の双方の動き方も、書面に書いておくと誤解が減ります。
書き方の例(一般的な例) 条件付きの承諾の書き方
条件の内容
理由「問題」は何を指すのか分からない。条件を番号を付けて具体的に書く
条件に違反したとき
理由失効の時期(将来に向かうのか、さかのぼるのか)を決める。さかのぼると、過去の行為の評価に影響する
期限
理由「当面」では、いつ承諾が終わるのか判断できない
確認の方法
理由成就の判断を巡る争いを避ける。確認の期間も決めておくと進行が止まらない
承諾を取り付ける順序と期限:返事がない場合の考え方
承諾を取り付ける手順は、依頼の内容、相手との関係、緊急性によって異なりますが、基本の流れは共通しています。流れを確認したうえで、期限と、返事がない場合の考え方を整理します。
承諾を取り付ける手順の例
- 承諾が必要かを確認する法律・契約・提出先の様式が承諾を要求しているかを確かめる。要求されていなければ、承諾の取付けは任意となる。
- 承諾する人を特定する所有者・管理者・共有者全員・法人の代表者など、承諾の資格がある人を確認する。署名者の漏れを防ぐ。
- 求める内容を書面にして示す行為の内容、対象、期間、範囲を具体的に書いた依頼書を、承諾する人に渡す。口頭だけで依頼すると、後で内容がずれる。
- 回答の期限を区切る「令和○年○月○日までにご回答ください」と区切る。ただし、期限までに返事がないことを承諾とみなす書き方は避ける。
- 承諾書を受領する署名・押印の方式、日付、承諾の範囲を確認する。条件が付いていたら、条件の内容を確認する。
- 承諾書を保管し、行為に着手する承諾の範囲を超えないよう、行為の内容を管理する。変更が必要になったら、再度承諾を得る。
承諾が得られるまでは、承諾を前提にした行為(工事・提供・契約)に着手しないのが基本です。
手順の4番目にある、期限の区切り方について、民法の考え方を補足します。民法523条1項は、承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができないと定めています(ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときを除く)。同条2項は、申込者が期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは効力を失うとします。承諾の期間を定めない申込みについては、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回できません(民法525条1項)。また、遅延した承諾は、申込者が新たな申込みとみなすことができます(民法524条)。これらは、契約の成立に関する規定ですが、承諾の期限を区切ることの意味を考える参考になります。期限があることで、申込みをした側はいつまで待つのか、承諾する側はいつまでに返事をすべきかが明確になります。
ここで、実務の落とし穴の一つが、「期限までにご返事がない場合は、承諾したものとみなします」という書き方です。民法には、契約の申込みに対して返事がないことを、一般に承諾とみなす規定はありません。このような記載を依頼書に書いても、相手が同意していなければ、書面上の記載だけで承諾の効力が生じるとは言えません。特別の法律には例外がありますが、承諾の取付けの書面の作り方としては、「回答がない場合は、承諾が得られなかったものとして、○○の手続を進めない」と書く方が、条文の考え方と合います。民法114条が、追認の確答がないときを「追認を拒絶したものとみなす」としているのも、返事がないことを承諾とはしない方向です。
もう一つの落とし穴は、「口頭で承諾を得た」ことの扱いです。契約の成立には、書面は要りません(民法522条2項)。口頭の承諾にも、法律上の効果が生じうるので、書面がないことで承諾が無効になるわけではありません。しかし、争いが生じたときに、いつ、誰が、何を承諾したのかを示す資料が必要になります。口頭で承諾を得た場合でも、その後すぐに、承諾の内容を書いたメールや確認書を送り、相手の返信や署名を得ておくと、承諾の記録が残ります。
承諾を拒まれたとき、応じてもらえないときの考え方
承諾を求めても、断られることがあります。承諾は、承諾する側の自由な判断であり、承諾しない自由が基本です。民法521条1項は、何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定できると定めています。承諾を求める側は、断られたことを前提に、次の対応を考える必要があります。
確認の問いと理由承諾を断られたときに考える問い
断られた理由は何か。条件の見直しで解消できるか
期間、範囲、費用の負担などを調整すれば、承諾が得られることがある。条件付きの承諾の書面に切り替えることも検討する。
承諾を前提に、すでに着手した行為はないか
承諾なしに先行すると、契約の解除などの問題が生じる(民法612条2項)。着手した行為を一時止めるのが基本。
法律上、承諾が必要な場面か。必要でなければ、承諾なしで進められる方法はないか
契約や提出先の様式が承諾を要求しているかを再確認する。要求されていなければ、承諾の取付けそのものを見直す。
承諾を得るために、相手に圧力をかけていないか
詐欺または強迫による意思表示は取り消せる(民法96条1項)。承諾を強要した形跡があると、得られた承諾が後で取り消される。
代わりに、別の手段や別の相手方を検討できないか
承諾を得られないことを前提に、計画や契約の内容を変更する。変更後の内容で、改めて承諾を求める場合もある。
表の4番目に挙げた強要の問題は、承諾の取付けで特に注意が必要です。民法96条1項は、詐欺または強迫による意思表示は取り消すことができると定めています。承諾を得るために、強い言葉で迫る、不利益を示して脅す、といった行為があると、承諾が得られても、後から取り消されるおそれがあります。承諾書を取る段階で、相手に十分な説明を行い、考える時間を与え、署名の経緯を記録しておくことが、承諾の有効性を守る手段にもなります。また、第三者が詐欺を行った場合は、相手方がその事実を知り、または知ることができたときに限り、意思表示を取り消せるとされています(民法96条2項)。承諾を求める側が、第三者の働きかけを利用して承諾を得た場合も、同じ観点から問題になりえます。
承諾が得られなかったにもかかわらず、行為を進めた場合に起こることも整理しておきます。法律が承諾を要求している行為は、承諾なしに行うと、契約の解除や損害賠償の問題になります。民法612条2項は、賃借人が承諾を得ずに第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は契約を解除できるとしています。そのほか、承諾が必要な行為を承諾なしに行うと、行為そのものが相手方に対抗できなかったり、無権代理として扱われたりします。承諾の取付けは、後から整えるよりも、先に整える方が、はるかに負担が小さくなります。
承諾書にするか、合意書にするか:判断の問いと、起きがちなこと
承諾の取付けでは、「承諾書」として一方的な承諾を得るのか、「合意書」として双方の権利義務をまとめるのかを、最初に決める必要があります。判断の材料を問いの形で示します。
確認の問いと理由承諾書にするか、合意書にするかを決める問い
承諾を求める側に、守るべき義務や費用の負担があるか
義務があるなら、双方が署名する合意書にする方が、義務の内容を明確にできる。義務がなければ、承諾書で足りる。
承諾の対価や条件が複雑か
対価、条件、期限、失効の条件が多い場合は、合意書で整理する方が、読み違いが減る。
当事者が三者以上か
三者以上が関わる場合、役割を分けて書く必要があるため、合意書で整理する方が、署名者の責任の範囲が明確になる。
承諾を撤回できる余地を残したいか
承諾書は、一方的な意思表示なので、撤回の扱いを書いておく。合意書は、解除の定めで整理する。
提出先の様式が決まっているか
様式がある手続では、様式が優先する。様式に承諾欄があれば、承諾欄一体型が自然。
最後に、承諾の取付けをめぐって起きがちな場面を整理します。
場面別の起きがちなこと
- 工事・提供を先に始めてから、承諾書を求めた承諾を得られなければ、すでに行った行為の評価が争いになる。承諾を得られても、過去の期間を含むのかが曖昧になりやすい。
- 追認の書面を、取引の相手方でなく代理人にだけ渡した追認は相手方に対してしなければ、その相手方に対抗できない(民法113条2項)。
- 「返事がなければ承諾とみなす」と書いて依頼した相手が同意していなければ、承諾にならない。相手の沈黙を前提に進めると、後で承諾の有無が争いになる。
- 条件付きの承諾で、条件を「問題がなければ」とだけ書いた条件の内容が曖昧で、成就したかどうかを巡る争いが起こる。
- 承諾を得るために、何度も強く迫った強迫によって得た承諾は取り消されるおそれがある(民法96条1項)。
- 口頭で承諾を得たが、記録を残さなかった承諾の内容や時期を後から示せず、承諾の範囲を巡って食い違いが生じる。
- 追認を求められた本人が、期限内に返事をしなかった期間内に確答がないと、追認を拒絶したものとみなされる(民法114条)。
承諾を取り付けるときのチェックリスト
- 承諾が必要な場面か(法律・契約・提出先の様式)を確認したか。
- 承諾する人の資格(所有者・共有者全員・代表者・代理人)を確かめたか。
- 依頼の内容を書面で示し、対象・期間・範囲を特定したか。
- 回答の期限を区切り、期限後の扱いを「承諾が得られなかったものとして扱う」とそろえたか。
- 条件付きの承諾では、条件、期限、失効の時期を具体的に書いたか。
- 先に動いてしまった場合は、追認の書面に、過去の行為を含むのか、将来のみかを書いたか。
- 承諾を得る過程で、圧力をかけていないか、説明と考える時間を確保したか。
承諾の取付けで争いが生じたときの整理は、委任状・承諾書・同意書のトラブルとよくある質問で扱っています。承諾と似た働きを持つ、説明を前提にした同意の書面は同意書の書き方のページが対象です。書面の種類の使い分けの全体像は委任状・承諾書・同意書・念書の違いで整理しています。
よくあるご質問
承諾を得ずに先に動いてしまった場合、後から承諾書をもらえば問題はなくなりますか?
事後に承諾が得られれば、解除を求めない扱いとなる場面もありますが、それは相手方の意思と承諾の内容によります。事後の承諾がどの範囲の行為に、いつから効力を持つかは、承諾の書き方で決まります。過去の期間も含めて承諾するのか、将来のみなのか、条件が付くのかを、書面で明確にしてください。無権代理の追認は、別段の意思表示がなければ契約の時にさかのぼって効力を生じますが、第三者の権利は害せません(民法116条)。
追認は誰に対してすればよいのですか?
無権代理の追認は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗できません(民法113条2項)。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りではありません。そのため、追認の書面は相手方宛てに作り、到達した記録を残すのが基本です。相手方は、本人に対して、相当の期間を定めて追認の確答を催告でき、期間内に確答がないと追認を拒絶したものとみなされます(民法114条)。
条件付きの承諾は、どう書けばよいですか?
条件、期限、条件に違反したときの扱いを具体的に書きます。条件が成就したときから承諾が効力を生じるのか(停止条件)、条件が成就したときに承諾が効力を失うのか(解除条件)を区別します(民法127条)。「問題がなければ」「当面の間」のような曖昧な書き方は避け、条件を番号付きで書き、失効の時期(将来に向かうのか、さかのぼるのか)まで決めておくと、後の争いが減ります。
「期限までに返事がなければ承諾したものとみなす」と書いてもよいですか?
書いても、相手が同意していなければ、承諾の効力が生じるとは限りません。民法には、返事がないことを一般的に承諾とみなす規定はありません。むしろ、追認の確答がないときは追認を拒絶したものとみなす規定があります(民法114条)。依頼書には、「期限までに回答がないときは、承諾が得られなかったものとして取り扱う」と書き、承諾を前提にした行為を進めない運用の方が安全です。
承諾を断られたのに行為を進めると、どうなりますか?
法律が承諾を要求している行為では、承諾なしに行うと契約の解除などの問題が生じます。たとえば、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は契約を解除できます(民法612条2項)。また、承諾を強要して得た承諾は、強迫を理由に取り消されるおそれがあります(民法96条1項)。断られたときは、理由を確認し、条件の見直しや、別の手段を検討してください。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の場面への当てはめは、書面を出す相手、手続の種類、当事者の関係によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、契約書作成の実務でよく見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は現行の規定にもとづいて書いています。官公庁の手続の様式や必要書類は、提出先の案内で確認してください。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会 / 法務省 / 消費者庁